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明石海峡タコだより

明石海峡タコだより

京都精華大学教授であり、林崎漁協の顧問を務められている ”お魚はかせ 鷲尾圭司(わしおけいじ)先生”が、たこフェリーの広報紙TACO'S PRESS に執筆している『明石海峡タコだより』をバックナンバー形式でご覧頂け、タコの生態から料理作りの秘訣まで、様々な内容をお届け致します。 ぜひご覧ください。

vol.11
『タコ墨の秘密』
vol.12
『タコの足の
不ぞろい』
vol.13
『渡りダコ』
vol.14
『たこつぼ
−その1』
vol.15
『たこつぼ
−その2』
vol.16
『たこつぼ
−その3』
vol.17
『彼岸花のころ』
vol.18
『生ダコの
取り扱い』
vol.19
『たこ焼き
の悩み』
vol.20
『タコとイカの吸盤くらべ』

◆ 明石海峡タコだより vol.11 『タコ墨の秘密』

 タコはよく忍者にたとえられる。変幻の術を使い、身体の色をまわりの岩や海底の模様に似せ、あるいは形を海藻に真似、敵の目をあざむく。いよいよ危機が迫ると、得意の墨を噴出し、煙幕をはって逃げうせるのだ。同じく墨を噴くイカと同じように思われているが、イカの墨は噴きだされても散らばらないで、そこにイカが居たかのような影武者となって残る。変わり身の術だ。煙幕のように散らない墨には、粘りがある。だから、イカ墨スパゲティや真っ黒な墨つくりのように、材料に良くからむ。

しかし、タコ墨は煙幕になって散らばる性質なので、同じように料理をしても、汚らしくなるだけ魅力に欠ける。おまけに、カニを好物にするタコは、墨にアミンという毒をもっており、それでカニを麻痺させて、ハサミで挟まれないようにして食っている。人がタコ墨を食べ過ぎると、その毒が効いてくることもあるので要注意だ。でも、小量なら問題なく、話題の食材にもなるだろう。



◆ 明石海峡タコだより vol.12 『タコの足の不ぞろい』

 タコを買い求めるときには気にもならず、持ち帰って湯がいた後に「このタコ足が不ぞろいだ」と気づくことが多い。スパッと切り落としたようになっていることもあれば、その切りあとから小さい足先が再生しているようなものまである。普通に無傷のものでも、左右対称になってはいるものの前と後ろでは太さや長さが違うものだが、不ぞろいの割合も結構多い。

 タコの敵は、ウツボが有名だが、明石では明石ダイ(マダイ)も強敵だ。数キロ以上の明石ダイの腹から、20センチほどのタコの足が出てきたことさえある。また、タコは共食いをするとか、タコは自分の足を食うとも言われており、自分で食っている分もあるのだろう。いずれにしても、食いちぎられる場面があって、その傷跡がなおってくると、そこから再び足が生えてくるという再生能力を持っているのだ。タコはおいしいばかりでなく、生命力をもたらしてくれるというが、姿や動作の変幻自在ぶりばかりか、活力の点でも不思議なパワーを持っている生きものだ。



◆ 明石海峡タコだより vol.13 『渡りダコ』

 明石のタコは一年を通して獲れますが、多いのは夏、そして晩秋でしょうか。しかし、3月から5月と9月にマダコの水揚げが極端に少なくなる時期があります。9月は一番大きな地付きの群が産卵に入り、親ダコが子ダコを残して死んでいくからです。そして春先は、水温が低いことと、冬に獲れていた大きいマダコが、南の紀伊水道に移動して、あちらで産卵に入るためです。

 5月の明石海峡を調査していて、マダコの赤ちゃんが採れることはめったにありません。紀伊水道では見つかることから、3月4月に紀伊水道でマダコの産卵が行われていることは確かなようです。これはきっと冬の間明石に居たマダコが、春になると南に移って産卵するのだと思います。この群を「渡りダコ」と呼んでいます。夏の地付きの群と交替制になっているのですね。



◆ 明石海峡タコだより vol.14 『たこつぼ−その1』

 漁港を歩くと、たこつぼが山に詰まれているところを見ることがある。素焼きやプラスチックでできたラグビーボール大の壺(つぼ)だ。よく見ると壺だけではなく、重石にする小さな枕くらいの石もあって、交互にロープにつなげられている。ロープの長さは2000メートルもある。それに10メートルごとに壺と重石が交互につけられて、海底に沈めていくのだ。

 一晩か二晩、海の底に置いておき、次の朝に引き揚げる。多いときには百個のツボに週十匹のタコが入るときもあるが、全く入らないときもある。毎回同じ場所に仕掛けるから、よく入るところと、あまり入らないところがある。

 たこつぼ漁師たちは、それぞれ自分の入れる場所を決めていて、他の人の邪魔をしないことも大切な約束になっている。もっと大きな、もっと元気なタコが、もっとたくさん入るように、漁師たちはたこつぼの手入れを欠かせない。



◆ 明石海峡タコだより vol.15 『たこつぼ−その2』

 明石海峡近くの漁港を歩くと、しばしば「たこつぼ」に出会う。このごろではプラスチック製の茶色い中ぶくれの筒型で、片側には海底での座りのよさを考えたものか、台座のような形が加工されている。その部分にセメントを流し入れて固め、重りにもしている。昔の素焼きのたこつぼでは、こんな台座はなく、わら縄で十字にくくられていただけだった。このわら縄にしても、たこつぼが持ちにくいので、つかみどころという理由もあるが、海底の岩にあたったときのクッションの役割をするようにも考えられ、独特のくくり方があったものだ。

 明石のものは、ロープが壺の底のところにつなげられるようになっていて、引き上げるときにはたこつぼがさかさまになって上がってくる。これではタコが落ちてしまいそうだが、タコには吸盤があって、壺の内壁にへばりついて落ちない。タコも寝床で安心しているときに、急に壺が揺れだし、緊張して壁に張り付いているのだろう。漁船の上に上げられて、あわてて逃れようとしても無駄な抵抗だ。



◆ 明石海峡タコだより vol.16 『たこつぼ−その3』

 明石海峡近くの漁港の場合、たこつぼのくくり方は「釣鐘」のように底でくくられており、口は下向きに開いている。しかし、他の地方には、同じようなくくり方のところもあれば、逆に口の側が「とっくり」のようにくくられており、ロープを手繰ると口が上を向いて上がってくるものもある。それぞれの漁師たちの長年の経験が、編み出した方法だ。

 明石では、潮が速いため「とっくり」のようにくくると、海水がつぼの中に流れ込み、タコの居心地が悪くなる。「釣鐘」にしてあると口が流れの反対を向いて、良い隠れ場になるわけだ。「とっくり」になっているところは、流れが弱く、海底に泥がたまっているようなところで、そこでは口が上を向くほうが、泥から離れてタコが入りやすくなるのだろう。

たこつぼのくくり方を見て漁場の流れを知れば、タコがどんなものを食べているのか想像がつくという。明石では、流れが速いのでカニや小魚を食べているようだ。



◆ 明石海峡タコだより vol.17 『彼岸花のころ』

 秋分の日の前後に彼岸花が咲く。夏草を刈り取った後の土手や、墓参りに訪れる墓地で真っ赤に咲いている花で、マンジュシャゲとも呼ばれる。子供たちには「死人花」とか「手ぐされ」などと恐ろしい名前が教えられ、美しいけれど触れてはならない花だと教えられる。飢饉が来たときの非常食の役割とが秘められている。

 この彼岸花の球根はラッキョウのような形で、別の用途としてタコ釣りの擬似餌に使われる。これからシーズンを迎えるイイダコ釣りには、海底の転がる貝に似せたこの球根が重宝にされた。当然のことながら、漁村の子供たちは田んぼの周りを巡っては彼岸花を探し、イイダコ釣りの季節にそなえ、大人はそれを追い回して叱ったものだという。

 マダコより体の小さなイイダコは、マダコの好む岩場には進出できず、マダコの嫌う泥場を主な暮らしの場にしている。砂から泥にかけての海底にはアサリやマテガイなどの貝類が豊富だ。動かない相手を餌にするイイダコは、カニや魚などの動くものを餌にするマダコより体がやわらかく、それが味わいにも違いとして出てくる。

 彼岸花の赤い花を見て、ゆでだこを連想するのは私だけだろうか。



◆ 明石海峡タコだより vol.18 『生ダコの取り扱い』

 「刺身用と表示してある生ダコを買ってきて、少し時間はたったけれど、刺身にして食べたら、下痢をした。タコの皮に緑色になる部分があったので気になる」という問い合わせをいただきました。

 緑色に光ることは、タコの表皮にある色素細胞が変化する中で起こることで、異常なことではありません。問題は刺身にして生で食べたところだと思います。

 「刺身用と表示してある生ダコ」は、多分スーパーなどで売られているトレイに入れられた皮も吸盤も付いた状態のタコ足が二三本入ったものでしょう。他のマグロやカツオのたたきなどは、柵になったものをそのまま切れば刺身として食べられますが、生ダコの場合は皮と吸盤を取り除いて、白い筋肉だけにして刺身にしなければなりません。皮も吸盤も一緒に薄切りにしただけでは、表皮に付いていた「ぬめり」が口に入ってしまします。生ダコの表皮や吸盤の「ぬめり」には雑菌が繁殖しやすく、食中毒の元になります。

 まず、「ぬめり」を十分とり、皮と吸盤を殺ぎ落とし、白い筋肉だけにして刺身にします。皮と吸盤は、熱湯で火を通して冷水にとり、水気をぬぐって刺身に添えましょう。



◆ 明石海峡タコだより vol.19 『たこ焼きの悩み』

 お祭りなどイベントの屋台、町の路地ごとにあった小店、最近では繁華街のビルにも出店している「たこ焼き屋」さん。関西での人気は根強い。しかし、その裏方では近ごろ共通した悩みが聞かれます。主役のタコの値段が上がってきているのです。

 明石では明石ダコにこだわるお店もあるのですが、一般的には明石のマダコより大柄な冷凍ダコが使われています。なんと、西アフリカから輸入されているものです。その漁獲量が減っていることと、このところの狂牛病(BSE;牛海綿状脳症)騒ぎでヨーロッパの地中海沿岸地方での魚介類の需要が急増したことも重なっているようです。そのため、アフリカのタコに触感が似たヤナギダコ(北海道や東北地方で獲れる)の需要が伸び、値段も5割ほど上がっているようです。

 タコの輸入業者は、世界中にアンテナを広げ、新しいタコ資源を探しているようですが、西アフリカに代わる産地は見つかっていません。メキシコに未利用のタコ資源があるのですが、そのタコは湯がくと緑色に。そんな色では食べてもらえそうにないですね。



◆ 明石海峡タコだより vol.20 『タコとイカの吸盤くらべ』

 タコもイカも同じような種類だと思われていますが、なかなかどうしていろいろな違いがあります。足の本数や、穴に入るか入らないか、墨が煙幕のように広がるか広がらないかなど、その差異について興味深い話題はたくさんあります。今回は、吸盤についてみて見てみましょう。

 タコの吸盤は、おわん状の吸い付き部分だけではなく、その奥に吸引のためのポンプ器官があって、吸い付く力を強めています。一方のイカは、ポンプ器官が発達していないので、吸盤のぐるりに歯のようなトゲの付いた角質のリングが付いています。イカの足を食べるとき、時々じゃりっとすることがあるでしょう。料理するときに、イカの足を包丁の背でこすってみてください。吸盤の大きさの硬いリングが外れてきます。虫眼鏡で拡大してみると、イカの種類によって、リングに生える歯の数や形が違うことがわかります。タコは吸い付ける、イカは引っかける吸盤なのです。足の太さがタコでは太く、イカでは細いのにはこんな違いがあったのですね。




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