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明石海峡タコだより

明石海峡タコだより

京都精華大学教授であり、林崎漁協の顧問を務められている ”お魚はかせ 鷲尾圭司(わしおけいじ)先生”が、たこフェリーの広報紙TACO'S PRESS に執筆している『明石海峡タコだより』をバックナンバー形式でご覧頂け、タコの生態から料理作りの秘訣まで、様々な内容をお届け致します。 ぜひご覧ください。


vol.1
『タコの鉢巻きって実は腹巻き!?』
vol.2
『タコは梅雨の雨を吸って大きくなる?』
vol.3
『タコの吸盤にご用心』
vol.4
『明石ダコの
産卵−その1』
vol.5
『明石ダコの
産卵−その2』
vol.6
『蜘蛛(くも)
ダコって?』
vol.7
『タコの煮方』
vol.8
『タコの刺身』
vol.9
『イイダコの
丸焼き』
vol.10
『子ダコの寝床』

◆ 明石海峡タコだより vol.1 『タコの鉢巻きって実は腹巻き!?』

 タコ(蛸)は不思議な生き物ですね。たこ焼き屋さんの看板に描かれているタコは、ほとんどが鉢巻きをしています。ほんもののタコは、もちろん鉢巻はしませんが、似合っているからおもしろいですね。

 でも、タコは頭足類といわれます。頭から足がはえていて、足の反対側は実はお腹なのです。だから、鉢巻きを巻いているところは、本当はお腹なので腹巻きというのが正解です。今度料理をするときに、お腹の中に卵がないか調べてみてね。



◆ 明石海峡タコだより vol.2 『タコは梅雨の雨を吸って大きくなる?』

 梅雨のじめじめした気候はどうも好きになれないという人も多いかと思いますが、水温が上がり、適度に濁りが生じるこの時期は、明石ダコ(マダコ)が一番よく成長する時期でもあります。これは餌を良く食う時期だからで、雨水で水ぶくれになるのではありません。

 明石ダコの好物は海底の岩穴にいるイシガニや磯魚たちで、海峡の潮がゆるくなる時間帯に大あわてで狩りをします。30分もすると次の潮が押し寄せてきて、岩穴にかくれなくてはなりませんから忙しいのです。ところが、こんな時には天敵の明石ダイ(マダイ)も頭上からめを光らせています。雨がもたらす濁りはタコにとって天敵から逃れる煙幕にもなっているのです。明石ダイがおいしいのも、明石ダコを食べているからなんですよ。



◆ 明石海峡タコだより vol.3 『タコの吸盤にご用心』

 タコが腕を伸ばし、ペタンとくっつく。吸盤の威力だ。家庭用品の壁にくっつける吸盤は、おわんを伏せたような形だが、タコの吸盤はそんな単純なものではない。おわん形だけだと、くっつく相手の形が変わると簡単に外れてしまう。タコは硬い岩にくっつくだけだはなく、カニや魚にもくっつく。そこで、おわんの奥に球状のポンプ室をつけ、そこでおわんの中の圧力を変えてしまうという仕掛けを持っている。だから、人の手にくっついても、タコが離そうと思わない限り、相当な力を入れないと離れなくなる。

この吸盤の奥の球は、湯がいて食べるとこりこりして、歯ざわりが楽しい。ただ、生のタコをてんぷらにするときには、吸盤の奥の球に包丁で傷をつけておかないと、熱い油の中で爆発してやけどの元になる。エビの尻尾と同じですね。安全のためには、湯がいておけば爆発しないのだが、新鮮なタコが手に入ったときの生ダコのてんぷらの味わいは捨て難い。



◆ 明石海峡タコだより vol.4 『明石ダコの産卵−その1

 「蛸壺や はかなき夢を 夏の月」と松尾芭蕉が俳句に記した季節。お盆を過ぎ、海は水温が最も高い時期を迎える。この時、梅雨のころから雌ダコの体内で熟してきた卵が蛸壺に産み付けられる。

マダコの卵は大きさが1ミリから2ミリの少し細長い卵形。冬に産卵期を迎えるイイダコの米粒大の卵よりはかなり小さい。

 産卵の様子は、雌ダコが岩穴や蛸壺の天井に張り付く。体内からとんがった口のようなロートを通じて、2個づつ卵を吐き出し、その卵についている糸を絡めながら次々とぶどうの房のような卵の塊を作っていく。ひと房が数センチになると、また新たに房を作り始め、最終的には十本以上の卵の房ができる。その様子が、藤の花が咲きそろったように見えることから「海藤花(かいとうか)」と呼ばれる。

 雌ダコはそのあと約3週間の間、飲まず食わずで新鮮な海水を吹き付けたり、卵につく汚れを拭い取ったりと卵の世話をする。9月になって2ミリほどのタコの赤ちゃんが泳ぎだすと、親ダコは安心したかのように安らかに死んでいく。子育ての情愛を感じる時だ。



◆ 明石海峡タコだより vol.5 『明石ダコの産卵−その2

 明石に暮らすマダコのうち、およそ7割ほどは8月から9月に産卵する。あと、2割ほどは春先に紀伊水道で産卵する。その他に、季節はずれに産卵する変りものも少しいる。

 産み付けられてから3週間ほどすると、卵からふ化し、海中に泳ぎだす。5ミリにも満たない小さな身体ながら、ちゃんと足は8本あり、少ないながらも吸盤をつけている。ひと月あまりは、海の表層を漂いながら、小さなプランクトンを食べて育っていく。

 そんな10月はチリメンジャコの漁期でもある。イワシのシラス(幼魚)をねらう船引き網に、タコの赤ちゃんも一緒に入ってしまうことがある。皆さんも、 チリメンジャコを食べるとき、小さなタコの赤ちゃんが入っているのを見たことがありませんか?

 かわいそうだけれど、ぷちっと美味しいものです。よく似たタンゴイカの赤ちゃんも入っていることがありますが、こちらは丸い部分にダンボの耳のようなヒレがついているから違いがわかります。他にも、エビやカニの幼生も入っていて、海のにぎやかさを教えてくれますね。



◆ 明石海峡タコだより vol.6 『蜘蛛(くも)ダコって?』

 マダコ、イイダコ、テナガダコの三種類が明石で獲れる主なタコ類。でも、時折「クモダコ」という呼び名も耳にする。昆虫のクモのようなタコを探しても、別の種類が目に付くわけでもない。どうやら、胴に黒い筋が入り、金色の丸印を模様とするイイダコがそれらしい。真冬に胴の中ぎっしりと飯粒のような卵を持っていないものをクモダコと呼び分けたのではないだろうか。

 秋が深まるにつれて、明石の西寄りの海岸沿いに小さなボートを浮かべては、小さな竿を左右に操りながらイイダコを釣る人が増える。本格的に寒くならないと「飯持ち」にならないけれど、小芋と煮るとおいしいものだ。釣り上げられたイイダコを見ると、袋状の胴体に黒い線が入って、クモの胴のようにも見える。細い足の動きも、どこか昆虫の動きに似て、昔の人はイイダコと別の種類と思ったのだろう。

 イイダコ釣りにはラッキョウや彼岸花の球根などが餌代わりに使われていたのも、懐かしい話だ。



◆ 明石海峡タコだより vol.7 『タコの煮方』

 生ダコが手に入ったとき、どのくらい茹でるとよいのか。グニャグニャしたタコが茹でられると硬くなるのは良く知られているが、お店で食べさせてもらう「やわらか煮」はどのように作るのだろうと悩む人も多いようだ。

 タコの大きさによっても違うが、普通手に入りやすい800gから1kgくらいのタコの場合、茹で始めてから15分ほどで一番硬くなる。さらに茹でていくとやわらかくなる。しかし、やわらかくなりはしても、タコのうまみもドンドン溶け出していく。つまり、新鮮なゆでダコを使う料理(タコブツや酢ダコ)には、あまり茹ですぎずにうまみを残す方が良く、筆者は5分から7分を目途にする。

 また、だしで味をつける料理では、沸騰させないように火加減に気を使いながら30分ほど茹でて、だしに出たうまみをもう一度吸収させる。沸騰させるとタコの皮がぼろぼろになり、見た目が悪くなる。そうそう、茹でる前にはたこのぬめりを取るのを忘れないこと。一握りの塩を振り、ていねいにもみ洗いする。さらっとした手触りになれば大丈夫。自分で茹でると味も格別。



◆ 明石海峡タコだより vol.8 『タコの刺身』

 タコの刺身で食べるのは、数年前までは珍味の部類だったが、今では立派な刺身商材としてスーパーにも売られるようになった。それまではタコというのは湯がいて出すもので、生では食べられないと思われていた。思えば、子供のころ海水浴に行ったとき、叔父さんがタコを捕まえ、いきなりその足にかじりついてうまそうに食っていた。まねをして口に入れたが、吸盤があごに張り付いて難儀した覚えがある。まんざら生で食べられないこともないものだと子供心に感じていた。

 十数年前、大阪の寿司屋で生ダコの刺身を出されたのが最初。生きたタコは体表がぬるぬるしている、そのぬめりに雑菌が繁殖しやすい。だからきれいに皮も吸盤も取り除いた白い姿で出てくる。吸盤のコリコリした食感も捨て難いが、吸盤の中にはぬめりが残るのでそこは加熱が必要だ。ぐんにゃりした身を扱い難いときは、少し冷凍庫で凍らせてから包丁を入れると切りやすい。くれぐれも新しい材料で試みることだ。



◆ 明石海峡タコだより vol.9 『イイダコの丸焼き』

 昨年秋のイイダコ漁はいまひとつ盛り上がらないままでしたが、寒中の産卵時期に入って漁模様が気になります。イイダコはその名の通り、腹中に飯粒のような卵をたくさん詰め込んで持っているので、産卵期の卵が熟してくるころが魅力です。

 普通は煮付けにして食べるものなのですが、丸焼きも面白い食べ方です。魚屋さんで飯持ち(卵を持っているメス)を選んでもらい、墨袋も取り除いてもらう。軽く塩もみしてぬめりを洗い流し、水気をぬぐって、焼き網に乗せる。焦がさないように火であぶっていくとシューと湯気がでてくる。胴の部分に竹串をさして、汁気が染み出さなければ火が通ったしるし。飯粒のような卵が蒸し焼き状態になるので、煮るよりもほっこりと仕上がります。慣れてくると少し早めに火からおろして、半熟状態でいただくのも捨て難い。日本海側ではヤリイカのメスをこの方法で料理しているところがあります。卵持ちのイカタコ類のうま味には、地域差を超えた魅力があるのでしょう。



◆ 明石海峡タコだより vol.10 『子ダコの寝床』

 夏に盛りを迎えるマダコの地付き群だが、冬はどうしているのだろう。マダコの寿命はほぼ1年とされているから、夏に1キロを超えるといっても、冬にはイイダコと変わらない。手のひらに乗るくらいの子ダコはどこにいるのだろう。

 明石海峡で操業する小型底引き網をのぞくと、獲物の魚以外にたくさんの貝殻が入ってくる。アサリやラッコの餌としておなじみのウチムラサキガイなど、真新しいものからゴカイなどの付着生物に覆われたものなどがゴロゴロ出てくる。その中に、生きた貝のように二枚の貝殻がぴったり閉じたものがある。貝かと思ったが、手にとると重さに違和感がある。手でひねってみると簡単に開いた。そして、中から子ダコが出てきた。

 子ダコの寝床は、あいた貝殻だったのだ。これなら外的から身を隠せて、安心して眠れることだろう。これも「宿借り(ヤドカリ)」の一種 と言える。

 漁師の中には、この習性を利用して、貝殻を連ねた延縄を作ってタコ漁に生かしている。




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